最終更新:2026年9月6日公開:2026年8月5日編集方針と検証の手順
足場が倒れて隣家の車を傷つけた。塗料が風で飛んで、向かいの家の窓に付いた。職人が屋根から落ちた。工事のあいだ、こうしたことが起きないとは言い切れません。
そのとき、誰が責任を負い、誰が費用を出すのか。頼んだ側としては気になるところですが、契約前にこの話をする人はあまりいません。
この記事では、民法の条文と、国が示している建設工事の標準請負契約約款をもとに、工事中の事故で誰が何を負うのか、契約前に何を確かめておけばよいのかを整理します。北海道で条件が変わる点にも触れます。
なお、この記事は法律の助言を行うものではありません。実際の判断は契約内容と事実関係によります。
結論:原則は請負人が処理解決に当たる
先に要点を示します。
- 民法は、注文者は請負人が第三者に加えた損害の賠償責任を負わないと定めています。ただし注文または指図に注文者の過失があったときは別です
- 国が示す標準約款では、施工のため第三者に危害・損害を与えたとき、受注者がその処理解決に当たるとされています
- 同じ約款には、受注者は工事中、火災保険または建設工事保険を付し、証券の写しを発注者に提出するという条項があります
- したがって、契約前に確認すべきは保険に入っているか、証券の写しをもらえるかです
ここを確かめておけば、多くの場面は業者側で処理されます。逆に、確かめないまま進めると、事故のあとで話がこじれます。
この記事で扱わないこと
- 契約書に書く項目そのもの … 契約書のチェックポイント
- 引き渡し後の保証 … 塗装の保証とアフター点検
- 足場の費用と法令上の位置づけ … 足場費用の考え方
- 災害で建物が壊れたときの保険 … 火災保険が使えるケース
民法は注文者をどう扱っているか

まず条文です。工事を頼んだ側の立場を定めているのが民法716条です。
注文者は、請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない。ただし、注文又は指図についてその注文者に過失があったときは、この限りでない。
原則としては、頼んだ側は責任を負わないということです。ただし、「こうしてくれ」と指示した内容に過失があった場合は例外になります。
たとえば、隣家との距離が足りないのに施主の希望で足場を無理な位置に組ませた、といった場合には、注文や指図の側の問題として扱われる余地が出てきます。細かい施工方法を素人判断で指示しないほうがよいという理由のひとつがここにあります。
実際に賠償するのは誰か
作業をした職人本人については民法709条(不法行為による損害賠償)が、その職人を使っている会社については民法715条(使用者等の責任)が関わります。715条は、ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負うと定めています。
つまり、職人個人と、その会社の両方が責任を問われうる構造です。だからこそ、会社側が保険に入っているかどうかが実務上の分かれ目になります。
出典:e-Gov法令検索「民法」第709条・第715条・第716条・第717条
完成後は工作物責任が問題になる

工事中と完成後では、責任の枠組みが変わります。完成後に関わってくるのが民法717条です。
この条文は、土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者が被害者に対して損害を賠償する責任を負うとしています。そして、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならないと続きます。
足場は工事中の仮設物ですが、建物そのものは工作物です。外壁材が落ちて通行人にあたった、屋根から落雪して隣家を壊したといった場面では、この枠組みで考えることになります。
注意したいのは、引渡しが済んだら施工者の責任がすべて消える、という意味ではないことです。717条が問題になるのは設置または保存に瑕疵がある場合で、第一次的な相手は占有者です。これとは別に、施工者自身の過失があれば709条の責任が、工事の内容が契約に適合していなければ契約不適合責任が残ります。どちらの話なのかは、原因によって変わります。
3項では、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者または所有者はその者に対して求償権を行使することができるとされています。施工に問題があった場合、最終的な負担が施工者に回る道が残されているということです。
落雪については屋根の雪処理の記事で扱っています。
出典:e-Gov法令検索「民法」第709条・第716条・第717条
国が示す標準約款には何が書いてあるか

中央建設業審議会が決定している民間建設工事標準請負契約約款には、事故に関わる条項が並んでいます。戸建ての塗装工事でこの約款がそのまま使われるとは限りませんが、何を決めておくべきかの基準になります。

| 条 | 見出し | 要点 |
|---|---|---|
| 第11条 | 損害の防止 | 受注者は自己の費用で、近接する工作物や第三者に対する損害の防止のため必要な処置をする |
| 第12条 | 第三者の損害 | 第三者に危害・損害を与えたとき、受注者がその処理解決に当たる |
| 第13条 | 施工一般の損害 | 完成引渡しまでに生じた損害は受注者の負担。工期は延長しない |
| 第14条 | 危険負担 | 不可抗力による損害の扱い。3つの案から選ぶ |
| 第15条 | 損害保険 | 受注者は火災保険または建設工事保険を付し、証券の写しを発注者に提出する |
第12条を読んでおく
実務でいちばん効くのが第12条です。条文はこうなっています。
施工のため、第三者の生命、身体に危害を及ぼし、財産などに損害を与えたとき又は第三者との間に紛争を生じたときは、受注者はその処理解決に当たる。ただし、発注者の責めに帰すべき事由によるときは、この限りでない。
2 前項に要した費用は受注者の負担とし、工期は延長しない。
ポイントは「処理解決に当たる」という部分です。金銭の賠償だけでなく、近隣との話し合いも受注者が行うという意味になります。施主が矢面に立つ前提ではありません。
出典:国土交通省「民間建設工事標準請負契約約款(乙)」(中央建設業審議会決定)
保険の条項が入っているかを見る

第15条は、受注者は、工事中、工事の出来形部分及び工事現場に搬入した工事材料、建築設備の機器等に火災保険又は建設工事保険を付し、それらの証券の写しを発注者に提出すると定めています。
ここで対象になっているのは工事そのものにかかる保険です。第三者への賠償に備える保険は、実務では別に手配されるのが一般的で、請負業者賠償責任保険などの名称で扱われます。
したがって、契約前の確認は次の2本立てになります。
- 工事の目的物にかける保険(火災保険・建設工事保険)に入っているか
- 第三者への賠償に備える保険に入っているか。上限額はいくらか
いずれも「入っています」という口頭ではなく、証券の写しを見せてもらうのが確実です。
ただし、書き分けが要ります。約款第15条が提出を求めているのは、工事の出来形部分や搬入した材料等にかける火災保険・建設工事保険と、設計図書に定められたその他の損害保険です。第三者への賠償に備える保険は、当然にこの提出義務の対象になるわけではありません。賠償責任保険の証券を見せてもらうのは、義務にもとづく請求ではなく、施主として確かめておく話だとご理解ください。
不可抗力のときはどうなるか

台風、地震、大雪といった不可抗力による損害についても、約款は定めを置いています。第14条は天災その他自然的又は人為的な事象であって、発注者又は受注者のいずれにもその責めを帰することのできない事由を不可抗力と定義しています。
そのうえで、A・B・Cの3案が用意され、どれを使うかを契約時に選ぶ形になっています。
| 案 | 負担の考え方 |
|---|---|
| A | 重大なもので受注者が善良な管理者の注意をしたと認められるものは発注者が負担 |
| B | 損害額と負担額を発注者と受注者が協議して定める |
| C | その損害は受注者の負担 |
A案・B案では、火災保険、建設工事保険その他損害をてん補するものがあるときは、それらの額を控除すると定められています。保険で回収できる分は差し引く、という整理です。
建設業法19条1項でも、請負契約の書面に記載すべき事項のひとつとして天災その他不可抗力による損害の負担に関する定めが挙げられています。契約書に書かれているべき項目だということです。契約書に書く内容は契約書のチェックポイントの記事にまとめています。
職人がけがをした場合

作業員の負傷は、通常は事業者側の労災保険と安全衛生管理の問題で、施主が直接負担する話にはなりません。労働者災害補償保険(労災保険)は、労働者を使用する事業について適用される制度で、保険料は事業主が負担します。
ただし、まったく関係がないとは言い切れません。施主が危ない指示を出した、敷地内の設備の管理に問題があったといった事情があれば、民法709条や716条ただし書などが問題になり得ます。
もうひとつ。一人親方は労働者ではないため、労災保険は特別加入していなければ適用されません。小規模な工事ほど、この形が関わってくることがあります。
あわせて、足場に関する安全の決まりは労働安全衛生規則にもとづくものです。厚生労働省の資料では、幅1メートル以上の場所では原則として本足場を用いること、悪天候のあとに点検を行い点検者の氏名を記録・保存することなどが示されています。
義務を負うのが誰かは、条文によって違います。足場の点検の直接の義務は、安衛則567条により事業者に課されます。同規則655条は注文者にも点検の義務を定めていますが、ここでいう注文者は建設物等を他の事業者に使用させる立場の者で、一般の施主とは異なります。
ただし、施主にまったく関わりがないわけでもありません。労働安全衛生法3条3項は、建設工事の注文者等に対し、安全で衛生的な作業の遂行をそこなうおそれのある条件を附さないよう配慮しなければならないとしています。工期や金額の詰め方が、そのまま安全に響くという趣旨です。
なお同じ資料には、いわゆる一人親方等を含めた建設工事従事者全体で、年間約400人が現場での災害で亡くなっているという記述があります。これは労働者に限った労災統計とは範囲が違います。労災統計のほうでは、令和7年の建設業の死亡者数は214人(前年比18人減)と公表されています。
施主の立場でできることは限られますが、安全の手間を削る方向の要求をしないことは実質的な意味を持ちます。「足場代を削れないか」という交渉が、そのまま安全の削減につながる場面があるためです。
「足場代無料」をうたう見積もりも同じ目で見てください。足場そのものを省けるわけではないので、その費用がどこにあるのかを確かめてください。他の項目に含まれている、自社で足場を持っている、値引きとして処理しているなど、理由はいくつか考えられます。足場の仕様と見積総額の内訳を見れば分かります。足場の位置づけは足場費用の記事で詳しく扱っています。
出典:厚生労働省「足場からの墜落防止措置が強化されます」/厚生労働省「令和7年の労働災害発生状況」
工事の目的物が壊れた場合

第三者への損害とは別に、工事しているもの自体が壊れた場合の定めもあります。約款の第13条です。
工事の完成引渡しまでに、契約の目的物、工事材料、建築設備の機器、支給材料、貸与品その他施工一般について生じた損害は、受注者の負担とし、工期は延長しないとされています。
ただし例外があり、次の場合は発注者の負担となり、受注者は必要と認められる工期の延長を求めることができるとされています。
- 発注者の都合で、受注者が着手期日までに着手できなかったとき、または発注者が工事を繰延べ・中止したとき
- 前払または部分払が遅れたため、受注者が着手せず、または工事を中止したとき
- その他発注者等の責めに帰すべき事由によるとき
施主の側から見ると、自分の都合で工事を止めると、そのあいだの損害の負担が変わるということです。北海道では中断がそのまま越冬につながるため、この点は軽くありません。
第11条が求めている「事前の処置」

事故が起きてからの話ばかりではありません。約款の第11条は、受注者は、工事の完成引渡しまで、自己の費用で、この契約の目的物、工事材料、建築設備の機器又は近接する工作物若しくは第三者に対する損害の防止のため、設計図書及び関係法令に基づき、工事と環境に相応した必要な処置をすると定めています。
「工事と環境に相応した」という部分が、現場ごとの判断を求めています。隣家が近い、道路に面している、風が強い、といった条件に応じて処置を変える、という意味です。
さらに、災害防止などのため特に必要と認めたときは、あらかじめ監理者の意見を求めて臨機の処置を取る。ただし、急を要するときは、処置をした後に通知するとも定められています。急ぐ場面では、先に手を打ってあとから報告してよいという整理です。
施主として見ておきたいのは、養生の範囲と、風の強い日の判断です。ここが現場ごとに変わる部分だからです。
実際に起きやすい場面
塗装工事で報告されやすい類型を整理します。
| 場面 | 関係する条項・考え方 |
|---|---|
| 塗料が風で隣家や車に飛ぶ | 第三者の損害。養生と作業中止の判断 |
| 洗浄の水が隣家に入る | 第三者の損害。事前の声かけ |
| 足場の部材で外構を傷つける | 損害の防止。搬入経路の確認 |
| 足場が強風で動く | 悪天候後の点検。不可抗力の扱い |
| 植栽が枯れる | 養生の範囲。事前の取り決め |
| 作業員が転落する | 労災保険と安全衛生の枠組み |
| 近隣から騒音・においの苦情 | 第三者との紛争。受注者が処理解決に当たる |
このうち植栽は、事前の取り決めがないともめやすい項目です。移動できるものは自分で動かし、動かせないものは養生の範囲を確認しておくのが無難です。
もうひとつ多いのが洗浄の水です。高圧洗浄では細かい水滴が広がるため、風向きによっては隣家の洗濯物や車まで届きます。洗浄の日はあらかじめ近隣に伝えてもらうのが確実です。工程の中身は高圧洗浄の記事にまとめています。
北海道で条件が変わる点
北海道の工事では、次の条件が加わります。
- 風 … 開けた土地では、塗料の飛散範囲が読みにくくなります
- 秋の急な冷え込み … 塗れない日が増え、足場の設置期間が延びます
- 初雪 … 工期が延びると、足場に雪が乗る事態が起こります
- 凍結 … 足場の踏板や地面が凍り、作業の危険が増します
- 冬囲い … 庭木の冬囲いの時期と工事が重なることがあります
とくに足場に雪が乗るという事態は避けたいところです。工期が読めない時期の着工は、それだけで条件が悪くなります。時期の考え方は北海道で外壁塗装ができる時期で扱っています。
もうひとつ、北海道で見落とされやすいのが敷地の使い方です。冬に雪を寄せている場所へ足場の資材を置くと、工事が長引いたときに置き場所がなくなります。資材置き場と、雪の置き場が同じ場所ではないかを、着工前に確かめてください。
北海道労働局は、強風・大雨・大雪・地震等のあとの足場の点検について、強風=10分間平均風速10メートル毎秒以上、大雨=1回50ミリ以上、大雪=1回の降雪量25センチ以上、中震=震度4以上という目安を示しています。これらのあとには点検が行われるものと理解しておいてください。
出典:北海道労働局「強風・大雨・大雪・地震等の際の足場の点検について」
足場があるあいだの防犯と安全
事故というと物損やけがを思い浮かべますが、足場は上階への通り道にもなります。工事期間中に気をつけたい点を挙げます。
- 2階の窓の施錠を習慣にする。留守にする日はとくに
- 足場のシートで室内が見えにくくなる反面、外からも死角ができる
- 子どもが足場に登らないよう伝えておく
- 近隣の子どもについても、業者と対策を相談しておく
- 夜間の資材の飛散防止がされているか、風の強い日に見る
業者側では、昇降階段の入口をふさぐ、シートを結束するといった対応が取られます。気になる点があれば遠慮せずに聞いてください。約款の第11条が求めている「工事と環境に相応した処置」の範囲の話です。
下請けが入るときの整理
塗装工事では、足場、洗浄、板金、塗装で担当が分かれることがあります。責任の所在を確かめるうえで、体制は聞いておく価値があります。
| 聞くこと | 意図 |
|---|---|
| 足場は自社か、専門業者か | 事故時の窓口を知る |
| 下請けの保険はどうなっているか | 賠償の範囲を確かめる |
| 現場をまとめるのは誰か | 連絡先を1本にする |
| 作業する人数と日程 | 近隣への説明に使える |
契約は元請けと結ぶのが通常です。問い合わせ先を1本に決めておくと、何かあったときに話が早く進みます。
契約の前に確認する4項目
まとめると、着工前に確認したいのは次の4つです。
- 保険 … 工事保険と賠償の保険に入っているか。証券の写しをもらえるか
- 第三者への対応 … 近隣との話は誰が行うのか。契約書に書かれているか
- 不可抗力 … 天災による損害の負担がどう定められているか
- 連絡先 … 何かあったとき、誰にどの番号で連絡するのか
4つめは軽く見られがちですが、実際に事故が起きるのは現場に監督がいない時間帯だったりします。会社の代表番号と、現場責任者の連絡先の両方を控えておいてください。土日や夜間に連絡がつくかどうかも、あわせて確認しておくと安心です。
着工前に自分で撮っておく写真
もめごとの多くは、工事の前からあった傷か、工事でついた傷かが分からないことから始まります。着工前に撮っておくと、あとの判断が楽になります。
- 外構 … 玄関まわりのタイル、ブロック塀、門扉、駐車場の床
- 窓とサッシ … ガラスの傷、網戸の破れ
- 庭 … 植栽の状態、鉢や置物の位置
- 隣家との境目 … 塀やフェンスの既存の傷
- 自分の車 … 駐車位置と、既にある傷
撮る手間は30分ほどです。業者側も着工前の写真を撮りますが、自分の記録があるほうが話が早く進みます。工程写真の考え方は工事の流れの記事で扱っています。
近隣へのあいさつは工事の一部
約款が「第三者との紛争」を受注者の処理解決に含めているとおり、近隣対応は工事の一部です。ただし、施主が何もしなくてよいという意味ではありません。
- 着工前に業者があいさつに回るかを確認する
- 回る範囲(両隣、向かい、裏)をすり合わせておく
- 自分でも普段から付き合いのある家には一言伝えておく
- 洗濯物や車の移動をお願いする日をあらかじめ伝えてもらう
ここを丁寧にやっておくと、多少のことは苦情になりません。工事の流れと近隣配慮は工事の流れと工期にまとめています。近隣との関係は工事が終わったあとも続くので、ここに手間をかける価値は十分にあります。
自分の火災保険が使える場面もある
工事に起因しない損害であれば、施主自身の火災保険が関わることがあります。工事期間中に台風で建物が傷んだ、といった場合です。
ただし、工事に起因するのか、災害によるのかで扱いが変わります。判断が難しい場面では、次の順で進めるのが整理しやすくなります。
- まずいつ・何が起きたかを写真と記録で押さえる
- 工事に起因する可能性があれば業者に連絡する
- 災害によるものであれば自分の保険会社に連絡する
- どちらとも判断がつかない場合は、両方に事実だけを伝える
やってはいけないのは、自己判断で原因を決めつけて片方にだけ話を進めることです。火災保険の対象になる損害の考え方は火災保険の記事に、地震による損害は地震保険の記事にまとめています。
起きてしまったときの動き方
実際に事故が起きた場合の順番を整理します。

| 順番 | やること |
|---|---|
| 1 | けが人の有無を確認する。必要なら救急へ |
| 2 | その場の状況を写真で残す |
| 3 | 現場責任者と会社へ連絡する |
| 4 | 相手方がいる場合、受注者が対応することを確認する |
| 5 | 自分の判断で「うちが払う」と言わない |
| 6 | やり取りの経過を記録に残す |
5番目が重要です。その場を収めたい気持ちから施主が負担を申し出ると、あとの整理が難しくなります。約款の考え方では、施工に起因する第三者の損害は受注者が処理解決に当たるものとされています。
保険の有無をどう確かめるか
「保険に入っていますか」と聞いて「入っています」と返ってこない業者は、まずありません。確かめ方を具体的にします。
- 証券の写しを見せてもらう(約款にも提出の定めがあります)
- 保険の名称と、対象になる範囲を聞く
- 賠償の上限額を聞く
- 下請けが入る場合、その分もカバーされるかを聞く
4つめは見落としやすい点です。足場だけ別の会社が担当する、という体制はよくあります。誰の保険がどこまで及ぶのかを、契約前に整理してもらってください。
会社の選び方全般は業者の選び方で扱っています。保険と登録制度で会社の背景を確かめる方法も、そちらで整理しています。
なお、保険に入っていること自体は、工事の質を保証するものではありません。あくまで、事故が起きたときに金銭的な整理ができるかどうかの話です。施工の中身は、見積書と工程の説明で別に確かめてください。
よくある質問
工事中に隣家を傷つけたら、施主も責任を負いますか
民法716条は、注文者は請負人が第三者に加えた損害の賠償責任を負わないと定めています。ただし注文または指図に注文者の過失があったときは例外です。個別の判断は事実関係によります。
近所からの苦情は自分で対応するのですか
標準約款では、第三者との間に紛争を生じたときは受注者がその処理解決に当たるとされています。契約でどう定めているかを、着工前に確認してください。
足場が強風で倒れたら不可抗力ですか
一概には言えません。約款が定める不可抗力は発注者・受注者のいずれにも責めを帰することができない事由です。点検や補強が適切だったかどうかが問われます。
植栽が枯れた場合は補償されますか
養生の範囲と、原因によります。事前に「この木は動かせない」と伝えておくことが実務上の備えになります。移動できる鉢は自分で動かしておいてください。
車に塗料が付いたらどうなりますか
施工に起因するものであれば、受注者が処理解決に当たる場面です。まず写真を撮り、自分で落とそうとしないでください。こすると傷が広がることがあります。
保険に入っていない業者は避けたほうがいいですか
判断材料になります。約款には証券の写しを発注者に提出するという条項があり、提出できる状態であることが前提になっています。出せない理由をどう説明するかを聞いてみてください。
小さな工事でも契約書は要りますか
建設業法は、請負契約の当事者に対して契約書面の作成を求めています。金額の大小にかかわらず、書面を残しておくほうが安全です。詳しくは契約書の記事で扱っています。
賃貸物件のオーナーの場合も同じですか
基本の考え方は同じです。ただし入居者という第三者が常にいるため、工事の連絡と、影響が出る日の周知がより重要になります。賃貸物件の外壁塗装の記事で扱っています。
工事を途中で止めたらどうなりますか
約款では、発注者の都合で工事を繰延べ・中止したときに生じた損害は発注者の負担とされ、受注者は工期の延長を求めることができるとされています。北海道では中断が越冬につながるため、慎重に判断してください。
近隣に子どもがいるのですが
足場は登れてしまいます。昇降階段の入口をふさぐ対応などを業者に相談してください。あいさつのときに、近隣にも一言伝えておくと確実です。
工事中に自分がけがをしたら
施主が現場に立ち入って負傷した場合、労災保険の対象にはなりません。労災は労働者のための制度です。作業中の現場には、業者の案内なしに入らないでください。
まとめ
工事中の事故について、民法716条は注文者は請負人が第三者に加えた損害の賠償責任を負わないと定めています。ただし注文または指図に注文者の過失があったときは例外です。
国が示す標準請負契約約款は、さらに具体的です。第12条で、施工のため第三者に危害・損害を与えたとき、受注者がその処理解決に当たるとし、その費用は受注者の負担で工期は延長しないとしています。ただし同条には、発注者の責めに帰すべき事由によるときは、この限りでないという留保が付いており、その場合は費用が発注者の負担になり、受注者は工期の延長を求めることができます。第15条では、受注者が火災保険または建設工事保険を付し、証券の写しを発注者に提出すると定めています。
したがって、施主がやるべきことははっきりしています。契約前に、保険の証券の写しを見せてもらうこと。第三者への対応を誰が行うか、契約書で確認すること。不可抗力による損害の負担がどう定められているかを読むこと。
北海道では、風、初雪、凍結という条件が加わります。工期が延びて足場に雪が乗るような進み方は、それ自体がリスクです。時期に余裕をもって着工できるよう、春のうちに動き出してください。
そして、事故が起きたときは写真を残し、その場で自分が負担すると言わないこと。整理はそのあとで進められます。
最後に、この話は業者を疑うための知識ではありません。約款が細かく条項を置いているのは、事故が珍しくないからではなく、起きたときに揉めないよう先に決めておくためです。契約前に保険と対応の窓口を確認するのは、双方にとって合理的な段取りです。
実際、これらを聞かれて嫌がる会社はほとんどありません。証券の写しを求めたときの反応そのものが、判断材料になります。見積もりを比べる段階で、金額と一緒に確認しておいてください。
工事中のにおいの正体と対処は外壁塗装のにおいにまとめています。
本記事は公表されている法令と標準約款をもとに一般的な考え方を整理したもので、個別の事案における法的判断を行うものではありません。標準請負契約約款は中央建設業審議会が作成・勧告するもので、個々の契約にそのまま適用されるとは限りません。労働安全衛生規則にもとづく義務は事業者に課せられるものです。実際の責任の所在は契約内容と事実関係により、判断に迷う場合は弁護士や自治体の相談窓口にご相談ください。

