見積書に「単層弾性」「微弾性フィラー」と書かれていた。業者に「ひび割れがあるから弾性で」と言われた。そう言われても、普通の塗料と何が違い、自分の家に合うのかは分かりにくいものです。
先に結論を書くと、弾性塗料は伸びて細いひび割れに追従する塗膜をつくる塗料で、向き不向きは外壁材と今の塗膜で決まります。ここでは、見積書でよく見る単層弾性・複層弾性・微弾性フィラーのJISでの位置づけを先に確かめます。そのうえで、伸びの基準が寒さで下がること、膨れなどの弱点、見積書で確かめる点を順に整理しました。
もとにしたのは、国土交通省の仕様書、業界団体の資料、塗料メーカーの公開情報です。自宅の壁に使えるかは、塗料メーカーの適合確認と施工業者の説明を優先してください。製品の推奨や価格、耐用年数は扱いません。当サイトは施工を行っていません。
この記事で扱わないこと
この記事は、伸びる塗膜の種類と仕組み、向き不向き、見積書での確かめ方に絞っています。次の話題は、それぞれの記事で扱っています。
- シリコン・フッ素・無機といった樹脂の比較は、寒冷地に強い外壁塗料の選び方で扱っています。
- モルタル外壁の傷みと補修の手順は、モルタル外壁の塗装にまとめています。
- ALC外壁の塗装の進め方は、ALC外壁の塗装で説明しています。
- 窯業系サイディングの塗り替えとシーリングは、窯業系サイディングの塗り替えで扱っています。
- ひび割れの幅と補修の判断は、外壁のひび割れはどこまで大丈夫かにまとめています。
- 膨れ・剥がれの原因全般は、外壁塗装の膨れ・剥がれの原因で扱っています。
- 北海道で塗装できる時期は、北海道で外壁塗装ができる時期で説明しています。
- 弾性塗料とは?硬質塗料との違いはゴムのような伸び
- 弾性塗料でよく見る3種類とJISの正式名
- 伸びの規格値は標準時120%、-10℃では20%
- 微弾性フィラーにはJISの伸びの規定がない
- 弾性塗料のメリットはひび割れ追従と透水量の低さ
- 弾性塗料のデメリットは膨れと汚れ、割れが直らない点
- モルタル・コンクリート外壁に弾性塗料が向く理由
- 窯業系サイディング・ALCへの弾性塗料は条件つき
- 前回の塗膜が弾性だった家の塗り替え注意点
- 仕様書に見る弾性系の塗る量と工程の違い
- 見積書の弾性塗料を業者とメーカーに確かめる質問
- 低温で硬くなる塗膜と冬の施工条件・確認先
- 弾性塗料の選び方についてよくある質問と答え
- まとめ:弾性塗料は種類と外壁材と既存塗膜で決める
弾性塗料とは?硬質塗料との違いはゴムのような伸び

弾性塗料は、引っ張るとゴムのように伸びる柔らかな塗膜をつくる塗料です。日本ペイントの用語集は、ひび割れに追随して伸びやすいため、コンクリートやモルタル外壁の防水塗装で使われると説明しています。一般的な硬い塗膜は、下地が動いてもそれに合わせて伸びることはあまり期待できません。ただし、同じ「弾性」と呼ばれていても、伸びの程度には差があります。エスケー化研は、弾性と可とう形(微弾性)を分け、可とう形は弾性ほど伸びないと説明しています。呼び名は業者やメーカーで揺れるので、まず「どの程度伸びる塗膜か」で捉えると整理しやすくなります。
塗膜が伸びて下地のひび割れに追従する仕組み
エスケー化研は、弾性を「塗膜自体が伸び、外壁下地の微細なひび割れに追従する機能」と説明しています。伸びることで、ひびの上の塗膜が切れにくくなり、雨水の浸入を防ぐという考え方です。
同社は、弾性は「一般に防水形とも言われ塗膜は高い伸び率を示します」とも書いています。追従の対象は、あくまで微細なひび割れです。大きな割れや下地の動きまで塗膜が受け止めるという意味ではありません。
「弾性」と「可とう形」は伸びの程度が違う
同じ資料で、可とう形は「弾性ほどの伸びはありませんが、塗膜に柔軟性があります」と説明され、「微弾性塗膜といわれることもあります」とされています。
見積書の「微弾性」は、この可とう形を指していることが多い言葉です。JISでも防水形(単層弾性・複層弾性)とは別の区分として扱われています。
出典:日本ペイント 塗料用語集「弾性塗料」/エスケー化研「よくあるご質問(塗料の性能)」
弾性塗料でよく見る3種類とJISの正式名
見積書に出てくる「単層弾性」「複層弾性(弾性タイル)」「微弾性フィラー」は俗称で、JIS A 6909(建築用仕上塗材)の正式名に置き換えられます。日本建築仕上材工業会の資料によると、単層弾性は防水形外装薄塗材E、複層弾性は防水形複層塗材Eです。微弾性フィラーは可とう形改修用仕上塗材(仕様書の呼び名は可とう形改修塗材E)の主材です。前の2つは「防水形」で伸びの規格があり、微弾性フィラーは塗り替え工事用の区分で、弾性とは分けて扱われます。業者ごとに呼び名が違っても、JISの名前で聞けば同じものかどうかが分かります。どれが見積書に書かれているかで、塗る量も弱点も変わってきます。

単層弾性=防水形外装薄塗材Eという位置づけ
日本建築仕上材工業会によると、JIS A 6909の仕上塗材は5つに大別されます。薄付け仕上塗材、複層仕上塗材、厚付け仕上塗材、軽量骨材仕上塗材、可とう形改修用仕上塗材です。単層弾性は、このうち薄付け仕上塗材の「防水形外装薄塗材E」に当たります。
建築研究所の資料も「防水形薄塗材E(単層弾性)」と、JIS名と俗称を並べて書いています。1種類の主材で伸びる層をつくる仕上げで、参考の塗り厚は3mm程度以下です。
複層弾性(弾性タイル)=防水形複層塗材E
複層弾性は、複層仕上塗材の「防水形複層塗材E」に当たり、業界団体の資料では「ダンセイタイル(複層弾性)」という通称も挙がっています。主材と上塗材を重ねてつくる仕上げで、参考の塗り厚は3〜5mm程度です。
単層より主材を厚く塗る設計で、国の仕様書では主材の基層を2回に分けて塗ります。
微弾性フィラーは可とう形改修用仕上塗材の主材
微弾性フィラーは、塗り替えのときに下地を整えながら塗る材料です。同会は、可とう形改修用仕上塗材を「改修工事用の塗材で、主材と上塗材(塗料)で構成されるが、主材は微弾性フィラーなどとも称されていた」と説明しています。
同会の講演資料では、窯業系サイディングの一般的な塗り替えは「シーラー+上塗り」とされています。シーラーは下地に染み込ませて密着を助ける下塗りで、厚みをつける微弾性フィラーとは役割が違います。
3種類の俗称とJISの正式名を一覧で見る
見積書の工法名は、次の表でJISの名前に置き換えられます。
| 俗称 | JIS A 6909の正式名 | 分類 | 参考の塗り厚 |
|---|---|---|---|
| 単層弾性 | 防水形外装薄塗材E | 薄付け仕上塗材(防水形) | 3mm程度以下 |
| 複層弾性(弾性タイル) | 防水形複層塗材E | 複層仕上塗材(防水形) | 3〜5mm程度 |
| 微弾性フィラー | 可とう形改修用仕上塗材(可とう形改修塗材E)の主材 | 可とう形改修用(塗り替え用) | 資料に記載なし |
塗り厚は、日本建築仕上材工業会がALC外壁向けの資料で示している参考値です。
出典:日本建築仕上材工業会「【材料一般】に関するQ&A」/日本建築仕上材工業会「ALC外壁への雨水浸入に有効な仕上塗材」/日本建築仕上材工業会「仕上塗材の改修工法」(平成28年度講演会資料)/建築研究所「建築研究資料 No.145」第2章
伸びの規格値は標準時120%、-10℃では20%
単層弾性と複層弾性(防水形)には、JIS A 6909で伸びの規格があります。メーカーの技術資料が示す規格値は、標準時120%以上、-10℃時20%以上、水に浸けた後と加熱した後はどちらも100%以上です。寒い条件では、規格上の伸びの下限がずっと低く設定されているということです。北海道の冬に「いつも同じように伸びる」とは考えないほうが安全です。資料では、温度の条件を規格値の表で「標準時」と「-10℃時」の2つで示し、本文では標準時の試験を23℃としています。伸びの数字は、塗料そのものの性質ではなく、決まった条件での試験の下限だと捉えてください。
JISが定める4条件の伸びとメーカー資料の帰属
| 伸びの試験条件 | 単層弾性(防水形外装薄塗材E) | 複層弾性(防水形複層塗材E) | 微弾性(可とう形改修塗材E) |
|---|---|---|---|
| 標準時 | 120%以上 | 120%以上 | 規定なし |
| -10℃時 | 20%以上 | 20%以上 | 規定なし |
| 浸水後 | 100%以上 | 100%以上 | 規定なし |
| 加熱後 | 100%以上 | 100%以上 | 規定なし |
表の値は、東亞合成の技術広報誌が「JIS A 6909による各種仕上塗材の性能(規格値)」として示しているものです。当サイトではJISの規格本文そのものは直接確認していないため、メーカーの資料が示す値として載せています。
同誌は、単層弾性と弾性タイルでは「23℃と-10℃での伸び」などで伸び能力とその耐久性を評価していると説明しています。製品の例として、日本ペイントのカタログは、ある防水形の主材について室温標準時400%、-10℃で32%という伸び率を公開しています。
低温では規格の下限が大きく下がる寒冷地の視点
標準時の120%と-10℃の20%を比べると、下限はおよそ6分の1です。これは規格値どうしを割った計算で、資料に書かれた言葉ではありません。
同じ技術広報誌は、外壁用塗膜防水材の規格を説明する箇所で、-10℃を塗膜が硬くなる低温として扱っています。寒冷地で弾性塗料が有利か不利かを論じた公的な資料は見つからなかったので、ここでは規格の事実だけを示します。
出典:東亞合成「ASHIBA」vol.124(2018年)/日本ペイント「DANシリコンセラ」カタログ
微弾性フィラーにはJISの伸びの規定がない
微弾性フィラーを主材とする可とう形改修塗材Eには、JIS上の伸び率の規定がありません。代わりに、折り曲げたときにひび割れが出ないかという「可とう性」で評価されます。メーカーの資料が示すJISの表でも、微弾性の欄に伸び率の数字はありません。業界団体は、ほとんどの既存塗膜に塗れることから、この塗材での塗り替えが一般的になっていると説明しています。ただし、劣化が進んだ壁や特殊な塗料の上では付着しないことがあり、事前の試し塗りが勧められています。「微弾性だから伸びる」と期待しすぎないことが大切です。
可とう性の試験は折り曲げてひび割れがないこと
東亞合成の技術広報誌の表では、可とう形改修塗材Eの伸びの欄は規定がなく、可とう性の欄で「異常なし」が求められています。エスケー化研は、可とう性の試験を「-90°に折り曲げた時、その表面にひび割れが生じないこと」と説明しています。
日本建築仕上材工業会の講演資料は、可とう形改修用仕上塗材について「微弾性機能があり、比較的防水性に優れている」と書いています。伸びを数字で保証する材料ではなく、柔らかさで細かい動きをいなす材料と捉えるのが近い理解です。
塗り替えの主流になった理由と試し塗りの勧め
日本建築仕上材工業会は、ほとんどの既存塗膜に適用できることから、この塗材での塗り替えが一般的になっていると説明しています。講演資料でも、この工法は「現在の主流」とされています。建築研究所の資料には、業界団体の平成21年の生産統計から推定した施工面積のシェアとして、可とう形改修塗材29.7%、単層弾性9.8%が示されています。
一方で同会は、既存塗膜の劣化が大きく進んでいる場合や特殊な塗料の上では、付着性が確保されないことがあるとして、事前に試し塗りを行うよう勧めています。基礎や塀での弾性・微弾性の扱いは、基礎の塗装とブロック塀の塗装で触れています。
出典:東亞合成「ASHIBA」vol.124(2018年)/エスケー化研「よくあるご質問(塗料の性能)」/日本建築仕上材工業会「【材料一般】に関するQ&A」/日本建築仕上材工業会「仕上塗材の改修工法」(平成28年度講演会資料)/建築研究所「建築研究資料 No.145」第2章
弾性塗料のメリットはひび割れ追従と透水量の低さ

弾性塗料の強みは、水を通しにくく、細いひび割れに付いていけることです。日本建築仕上材工業会の比較表では、複層弾性と単層弾性の透水量は0〜0.2ml/24hで、ひび割れ追従性は「有」とされています。硬質のアクリルリシンは透水量30〜135ml/24hで、追従性は「無」です。数字で見ると、雨水を通しにくい点ではっきり差があります。ただし、この表はALC外壁への雨水の浸入を主題にした資料のもので、すべての外壁に同じ数字が当てはまるわけではありません。「弾性にすれば防水になる」と考えるより、「雨水の浸入を抑える助けになる」と捉えるほうが資料に沿っています。
業界団体の比較表で見る透水量・透湿度・追従性
日本建築仕上材工業会が、雨水の浸入に有効な仕上塗材の選び方として示した表を並べ直しました。透水量は水の通しやすさ、透湿度は水蒸気の通しやすさを表します。
| 仕上塗材(通称) | 透水量(ml/24h) | 透湿度(g/㎡・24h) | ひび割れ追従性 |
|---|---|---|---|
| 防水形複層塗材E(複層弾性) | 0〜0.2 | 10〜25 | 有 |
| 防水形外装薄塗材E(単層弾性) | 0〜0.2 | 15〜45 | 有 |
| 複層塗材E(吹付けタイル) | 0.1〜0.2 | 35〜70 | 無 |
| 外装厚塗材E(樹脂スタッコ) | 0〜70 | 25〜160 | 無 |
| 可とう形外装薄塗材E(弾性リシン) | 0〜70 | 60〜110 | やや有 |
| 外装薄塗材E(アクリルリシン) | 30〜135 | 200〜500 | 無 |
透水量が小さい防水形は、透湿度も小さい傾向があります。水を通しにくい塗膜は、水蒸気も逃がしにくいということです。
「防水になる」ではなく雨水の浸入を抑える
エスケー化研の「雨水の浸入を防ぎます」という説明は、微細なひび割れに追従できることが前提です。東亞合成の技術広報誌によると、ひび割れ部の伸び縮みの繰り返しへの追従を評価する耐疲労性試験は標準ではありません。「耐疲労形」と表示する場合だけ試験するとされています。
日本ペイントのカタログにも、地震・台風・軟弱地盤など予想を超えた震動などで、本来のクラック追随性を発揮できない場合があるという注記があります。伸びの規格を満たす塗膜でも、どんな動きにも付いていくわけではないということです。
出典:日本建築仕上材工業会「ALC外壁への雨水浸入に有効な仕上塗材」/エスケー化研「よくあるご質問(塗料の性能)」/東亞合成「ASHIBA」vol.124(2018年)/日本ペイント「DANシリコンセラ」カタログ
弾性塗料のデメリットは膨れと汚れ、割れが直らない点

弾性塗料の弱点としてまず挙がるのは、条件がそろうと塗膜が膨れることです。日本ペイントは、断熱性の高い外壁では夏に表面が高温になり、弾性の塗膜に新しい塗料を塗り重ねると水蒸気が逃げにくくなって膨れやすいと説明しています。透湿性の低い塗膜は、下地に水分が多いときにも膨れることがあると業界団体は書いています。柔らかい塗膜には汚れが付きやすいという性質もあり、塗ったからといって下地の割れが直るわけではありません。弱点を先に知っておくと、見積書の提案が自分の家に合うかを判断しやすくなります。
蓄熱しやすい外壁で起きる塗膜の膨れの仕組み
日本ペイントによると、ALCパネル、窯業系サイディング、軽量モルタルなど断熱性が高い外壁は、夏の日差しで表面が50〜60℃以上になることがあります。すると外壁の中の湿気が熱せられて水蒸気になりやすくなります。
既存の弾性塗膜の上に新しい塗料を塗り重ねると、水蒸気が逃げにくくなり、弾性塗料の柔らかい塗膜を膨らませてしまう傾向があるというのが同社の説明です。同社の用語集も、蓄熱性の高い素地に塗られた弾性塗料を剥がさずに塗り替えたときに膨れが起こりやすいとしています。膨れ全般の原因と直し方は、膨れ・剥がれの記事で扱っています。
透湿性が低い塗膜は下地の水分を逃がしにくい
日本建築仕上材工業会は、防水形の仕上塗材について、下地に水分が多い場合や、一液形で色の濃い上塗りを使う場合は、塗膜が膨れることもあると書いています。そのため新築では、吹付けタイルやスタッコ、リシン系が多く使われているとも説明しています。
ALC協会も、単層弾性を「透湿性が比較的低いため、下地の調整、乾燥に注意が必要」としています。メーカーの製品説明の中には、透湿性の高さを「弾性塗膜にありがちな膨れの防止」につながる点として挙げているものもあります。透湿性が弾性塗料の弱点になりやすいことは、この書き方からも読み取れます。
弾性塗料で下地のひび割れが直るわけではない
当サイトのひび割れの記事では、伸びのある塗料を使えばある程度の動きには追従するものの、それで下地の割れが直るわけではないと整理しています。汚れが付きやすい、膨れが出ることがあるといった別の性質があることにも触れています。
モルタル外壁の記事でも、「弾性塗料なら割れない」と決めないように書いています。ひびの幅と補修の要否は、塗料を選ぶ前に判断することです。
出典:日本ペイント「弾性塗料はALCパネルや窯業系サイディングの外壁塗り替えに適さないといわれたがなぜですか?」/日本ペイント 塗料用語集「膨れ」/日本建築仕上材工業会「ALC外壁への雨水浸入に有効な仕上塗材」/ALC協会「技術資料 ALCパネルの仕上げおよび防水(第9版)」/エスケー化研 外装仕上材の製品情報
モルタル・コンクリート外壁に弾性塗料が向く理由

弾性塗料が本来想定しているのは、ひび割れが入りやすいモルタルやコンクリートの外壁です。日本ペイントの用語集も、ひび割れしやすいコンクリートやモルタル外壁の防水塗装で使われると説明しています。当サイトの寒冷地塗料の記事でも、モルタルや既存のひびがある壁では、弾性や微弾性フィラーを選択肢に挙げています。ただし、国の仕様書では、可とう形や防水形の仕上塗材をモルタルに塗る場合、下地の仕上げを金ごてに限っています。下地の状態が前提になるということです。北海道で気になる凍害については、壁に水を吸わせないことが先で、弾性はそのための手段の1つとして考えます。
仕様書ではモルタル下地の仕上げは金ごてに限る
国土交通省の公共建築工事標準仕様書は、表15.6.3で、可とう形と防水形の仕上塗材を使う場合のモルタル下地の仕上げを「金ごて」だけとしています。はけ引きや木ごての仕上げは、この組み合わせでは対象外です。
これは公共建築物の工事で使う仕様書で、戸建てにそのまま当てはめるものではありません。自宅のモルタル壁がどう仕上げられているかで選べる材料が変わる、という物差しとして読んでください。詳しくはモルタル外壁の記事にまとめています。
凍害対策では吸水を抑えることが先という考え方
当サイトの寒冷地塗料の記事では、ひび割れが心配な外壁には弾性・微弾性という選択肢があるとしています。そのうえで、凍害対策としては外壁材が水を吸わないようにすることのほうが重要だと整理しています。
弾性塗料なら凍害に強い、とは言えません。吸水を抑える下塗りや補修が先にあり、その上で伸びる塗膜が役に立つかを考える順番です。
出典:日本ペイント 塗料用語集「弾性塗料」/国土交通省「公共建築工事標準仕様書(建築工事編)令和7年版」
窯業系サイディング・ALCへの弾性塗料は条件つき

メーカーや業界団体の資料は、窯業系サイディングやALCに弾性塗料を使ってはいけないとは書いていません。ただし、断熱性が高い外壁は夏に表面が50〜60℃以上になることがあり、弾性塗料は次の塗り替えで膨れが生じやすいと日本ペイントは注意しています。日本建築仕上材工業会の講演資料は、サイディングでは弾性塗料、特に濃い色は避けたほうが良いとしています。ALC協会は単層弾性を「△」、つまり注意が必要な材料として扱っています。外壁材ごとの位置づけは、自宅の壁と照らし合わせられるよう一覧にしました。
夏に表面50〜60℃以上になる外壁で膨れやすい
日本ペイントは、弾性塗料がALCや窯業系サイディングの塗り替えに適さないと言われる理由を「次回塗り替えの際、塗膜の膨れが生じやすいため」と説明しています。仕組みは、デメリットの章で見た水蒸気の話です。
同社のカタログは、蓄熱しやすい建材の外壁で旧塗膜が弾性リシンなどの場合、塗り替えの時点ですでに膨れていることがあると注意しています。そのまま塗ると膨れが広がるおそれがあるので、完全に除去するよう書かれています。当サイトの窯業系サイディングの記事でも、問題になるのは旧塗膜が弾性のときの塗り重ねだと整理しています。
業界団体の講演資料は濃色の弾性を避けるとする
日本建築仕上材工業会の講演資料は、窯業系サイディングの塗り替えの留意点を挙げています。そのうちの1つが「断熱性が高いので、熱軟化しやすい塗膜は、しばらくしてから熱膨れが発生する場合があるので弾性塗料(特に濃色)は避けた方が良い」です。
同じ資料は、サイディングは乾湿や凍結融解の繰り返しで板の変形や反りが生じるため、比較的早期に改修するよう求めています。業者に「サイディングでも弾性で大丈夫」と言われたら、色と、既存の塗膜が何かをあわせて確かめてください。
ALC協会は単層弾性を△、両面密閉を避ける
ALC協会の技術資料は、単層弾性(防水形外装薄塗材E)を△とし、「透湿性が比較的低いため、下地の調整、乾燥に注意が必要」としています。ALCパネルは放湿性・通気性があるため、両面を密閉する仕上げは避けるようにとも書かれています。
△は禁止ではなく、条件をそろえて使う材料という位置づけです。当サイトのALC外壁の記事でも、同じ扱いで説明しています。
外壁材ごとの向き不向きを一覧で確かめる
| 外壁の種類 | 資料での位置づけ | 主な注意点 | 当サイトの記事 |
|---|---|---|---|
| モルタル・コンクリート | ひび割れしやすい外壁の防水塗装で使われる | 下地の補修が先。公共仕様書ではモルタル下地の仕上げを金ごてに限定 | モルタル外壁の塗装 |
| 窯業系サイディング | 使ってはいけないとは書かれていない | 夏の高温で膨れやすい。弾性、特に濃色は慎重に | 窯業系サイディングの塗り替え |
| ALC | 単層弾性は△(注意が必要) | 透湿性が低く、下地の調整と乾燥に注意 | ALC外壁の塗装 |
| 旧塗膜が弾性の壁 | 剥がさずに重ねると膨れが生じる | 相性をメーカーに確認し試し塗り | 膨れ・剥がれの原因 |
出典:日本ペイント「弾性塗料はALCパネルや窯業系サイディングの外壁塗り替えに適さないといわれたがなぜですか?」/日本ペイント「DANシリコンセラ」カタログ/日本建築仕上材工業会「仕上塗材の改修工法」(平成28年度講演会資料)/ALC協会「技術資料 ALCパネルの仕上げおよび防水(第9版)」
前回の塗膜が弾性だった家の塗り替え注意点

塗り替えでは、これから塗る塗料より、今の壁に付いている塗膜が弾性かどうかが判断を左右します。日本ペイントは、壁の旧塗膜が弾性塗料の場合、その塗膜を剥がさずに塗り重ねると膨れが生じると説明しています。建築研究所の資料にも、既存が高弾性タイプの防水形複層塗材の場合に不具合が起きることがあると書かれています。既存の塗膜と塗り替えに使う塗材には相性があり、業界団体はメーカーへの相談と事前の試し塗りを勧めています。前回の塗料名や工法が分からなければ、当時の見積書や請求書、施工した会社の記録を探すところから始めます。
剥がさずに塗り重ねると次回の塗り替えで膨れやすい
日本ペイントは、窯業系サイディングの塗り替えの注意点を公開しています。その1つが「旧塗膜が弾性塗料の場合、剥がさずに塗り重ねてしまうと、水蒸気が逃げにくくなり、熱軟化した塗膜を膨らませてしまう問題(膨れ)が生じます」です。
建築研究所の資料は、既存塗膜と改修塗材の組み合わせの表に注記を付けています。通常は問題のない組み合わせでも、既存が高弾性タイプの防水形複層塗材だと不具合が発生することがあるという内容です。すでに膨れている塗膜は、メーカーのカタログのとおり除去してから塗るのが前提です。
相性はメーカーに相談し、試し塗りで確かめる
日本建築仕上材工業会は「既存塗膜と塗り替えに用いる塗材には相性(適合性)がありますので、塗料メーカーに相談してください」としています。エスケー化研も、水性塗料の上に溶剤形塗料を塗ると膨れやちぢみが起きることがあるとして、試し塗りで確かめるよう書いています。
塗り替えの前に、次の3つを確かめておくと話が早く進みます。
- 外壁材:モルタル・コンクリート、窯業系サイディング、ALCのどれか
- 前回の塗装:塗料名と工法(見積書・請求書・施工会社の記録)
- 今の状態:膨れや剥がれがどこに、どのくらいあるか
出典:日本ペイント「外壁の窯業系サイディングの塗替えは注意が必要と聞いたがどういう意味ですか?」/建築研究所「建築研究資料 No.145」第2章/日本建築仕上材工業会「【材料一般】に関するQ&A」/エスケー化研「よくあるご質問(塗料の性能)」
仕様書に見る弾性系の塗る量と工程の違い
国土交通省の公共建築工事標準仕様書では、複層弾性(防水形複層塗材E)は、主材の基層を1.7kg/㎡以上、2回に分けて塗る設計です。角や目地まわりに先に塗る「増塗り」も工程に入っています。硬質の吹付けタイル(複層塗材E)の主材の基層は0.7kg/㎡以上で1回なので、防水形は主材をかなり厚く塗る前提だと分かります。伸びる塗膜は厚みがあってこそで、量が足りなければ期待した性能は出にくいということです。公共建築物向けの仕様なので戸建てにそのまま当てはめるものではありませんが、見積書の工程を読むときの物差しになります。
防水形複層塗材Eは増塗り1回・主材基層2回
| 項目(kg/㎡・希釈前) | 複層塗材E(吹付けタイル) | 防水形複層塗材E(複層弾性) | 可とう形改修塗材E(改修用) |
|---|---|---|---|
| 下塗材 | 0.1以上(1回) | 0.1以上(1回) | 表に記載なし |
| 増塗材 | 表に記載なし | 0.6以上(1回) | 表に記載なし |
| 主材 | 基層0.7以上(1回)・模様0.8以上(1回) | 基層 合計1.7以上(2回)・模様0.7以上(1回) | 0.3以上または0.8以上(1回) |
| 上塗材 | 合計0.25以上(2回) | 合計0.25以上(2回) | 合計0.25以上(2回) |
複層塗材Eと防水形複層塗材Eは、吹付けで凹凸をつける仕上げの値です。可とう形改修塗材Eは改修の仕様書の値で、平たん状なら0.3以上、さざ波状・ゆず肌状なら0.8以上と仕上げの形状で変わります。
仕様書の表15.6.1では、防水形複層塗材Eの主材の基層は1.7kg/㎡以上で2回です。表の注に「2回塗りの場合、2回分の使用質量を示す」とあるので、2回合わせて1.7kg/㎡以上という意味になります。
増塗りについては、出隅、入隅、目地部、開口部回りなどに、はけやローラーで端部に段差のないように塗り付けると定めています。
防水形の所要量の確認は単位面積当たりの使用量
仕様書の15.6.7は「所要量等の確認方法は、防水形の仕上塗材又は軽量骨材仕上塗材の場合、単位面積当たりの使用量によることを標準とする」としています。塗った面積に対して、どれだけの材料を使ったかで確かめるということです。
メーカーのカタログにも「塗膜の伸長性は中塗りの使用量によって異なります」という注意があります。見積書の面積と、使う缶数や使用量の記録を業者に聞いておくと、厚みが確保されたかを後から確かめる手がかりになります。
出典:国土交通省「公共建築工事標準仕様書(建築工事編)令和7年版」/国土交通省「公共建築改修工事標準仕様書(建築工事編)令和7年版」/日本ペイント「DANシリコンセラ」カタログ
見積書の弾性塗料を業者とメーカーに確かめる質問

見積書に「弾性」と書かれていたら、工法名をJISの区分に置き換え、塗る量と回数、メーカーの適用下地を業者に聞きます。答えが仕様書やメーカーの公開仕様と合っているかを見ると、提案が自分の家に合うかを判断する手がかりになります。聞く相手は、工事のことなら施工業者、塗料が外壁材や前回の塗膜に合うかなら塗料メーカーです。当サイトは工事の依頼や見積もりの相談を受け付けていないため、問い合わせる相手はこの2つになります。質問の答えを見積書の余白に書き留めておくと、相見積もりで業者を比べるときにも役立ちます。

見積書の工法名がJISのどの区分に当たるかを聞く
「弾性仕上げ」「微弾性工法」とだけ書かれていたら、防水形外装薄塗材E、防水形複層塗材E、可とう形改修塗材Eのどれに当たるかを聞きます。区分が分かれば、伸びの規格があるかどうか、どれだけ塗る設計かが分かります。
複層の仕上げは主材と上塗材の組み合わせでできているので、それぞれの製品名も確かめます。国の仕様書は、下塗材・主材・上塗材を同じ製造所の製品とするよう定めています。
塗る量・回数・増塗りの有無を仕様書と見比べる
前の章の表を物差しに、主材を何回、どれだけ塗るのか、増塗りをどこに入れるのか、上塗りは2回かを聞きます。値が仕様書と違っていても、それだけで不適切とは言えません。
戸建てでは、メーカーが製品ごとに定める仕様に沿って塗ることが多くあります。違いがあれば、メーカーの仕様書のどの値に沿っているかを説明してもらうと納得しやすくなります。
つやなし・メタリックは防水形に適用しない
国の仕様書は、上塗りのつやなしとメタリックを、可とう形複層塗材と防水形複層塗材には適用しないとしています。改修の仕様書では、可とう形改修塗材も同じ扱いです。
色やつやの希望がある場合は、選ぼうとしている塗材で実現できるかを先に聞いておきます。濃い色の熱膨れは、サイディングの章で見たとおりです。見積もりの前に聞くことをまとめました。
- 区分:工法名はJISのどの区分か(防水形外装薄塗材E・防水形複層塗材E・可とう形改修塗材E)
- 製品:主材と上塗材の製品名と製造所
- 量と回数:主材の使用量・回数、上塗りの回数
- 増塗り:出隅・入隅・目地・開口部まわりに入れるか
- 適合:外壁材と前回の塗膜に対するメーカーの適用可否、試し塗りの有無
- 色とつや:希望の色・つやが選ぶ塗材で使えるか
出典:国土交通省「公共建築工事標準仕様書(建築工事編)令和7年版」/国土交通省「公共建築改修工事標準仕様書(建築工事編)令和7年版」/日本建築仕上材工業会「【材料一般】に関するQ&A」
低温で硬くなる塗膜と冬の施工条件・確認先

弾性塗膜も寒さでは硬くなり、JIS A 6909の品質項目には低温安定性や温冷繰返し、伸びが含まれています。伸びの規格値が-10℃で大きく下がることは、伸びの規格の章で見たとおりです。塗る作業そのものにも条件があり、国の仕様書は、気温5℃以下、湿度85%以上、結露などで乾燥に適さない場合は塗装しないと定めています。ただし、暖めたり換気したりして条件を整える場合は、この限りではないとされています。北海道で塗れる時期は地域と年で変わるため、塗装時期の記事と施工業者の工程で確かめてください。材料の適合と見積書の質問は前の章のとおりです。
JISの試験項目にある低温安定性と温冷繰返し
日本建築仕上材工業会は、JIS A 6909の品質項目を挙げています。低温安定性、付着強さ、温冷繰返し、透水性、伸び、伸び時の劣化、可とう性などです。寒さや温度差への強さも、規格の中で確かめる項目になっています。
寒冷地での有利・不利を論じた公的な資料は、伸びの規格の章で書いたとおり、当サイトでは確認できていません。北海道に向く、向かないと一般化せず、下地の水分、透湿性、塗る時期の3つで判断するのが資料の範囲で言えることです。
施工できる時期は塗装時期の記事と業者に確かめる
国土交通省の仕様書は「気温が5℃以下、湿度が85%以上、結露等で塗料の乾燥に不適当な場合は、塗装を行わない」と定めています。ただし書きは「採暖、換気等を適切に行う場合は、この限りでない」です。メーカーのカタログにも、気温5℃未満、湿度85%以上のときは塗装を避けるよう書かれています。
北海道で塗れる月の考え方は、北海道で外壁塗装ができる時期で整理しています。この章で確かめることは、次の2つに絞られます。
- 施工業者:施工する時期と、気温5℃以下・湿度85%以上のときにどう管理するか
- 塗装時期の記事:北海道で塗れる月の考え方
出典:日本建築仕上材工業会「ALC外壁への雨水浸入に有効な仕上塗材」/国土交通省「公共建築工事標準仕様書(建築工事編)令和7年版」/日本ペイント「DANシリコンセラ」カタログ
弾性塗料の選び方についてよくある質問と答え
弾性塗料について検索でよく見かける疑問に、この記事で紹介したJISの区分、業界団体の資料、メーカーの公開情報をもとに短く答えます。耐用年数や単価のように出典のある答えがない問いには、何を見て判断すればよいかを答えます。細かい数字は本文の表で確かめてください。答えはどれも一般的な目安です。
自宅の壁で使えるかどうかは、外壁材と前回の塗膜によって変わります。使えるかどうかの最終判断は、塗料メーカーの適合確認と施工業者の説明に委ねてください。
弾性塗料と微弾性フィラーは同じものですか
違います。弾性(防水形)には伸びの規格がありますが、微弾性フィラーは可とう形改修塗材Eの主材で、伸びの規定はなく、折り曲げたときの可とう性で評価されます。
単層弾性と複層弾性はどちらを選べばよいですか
一概には決められません。伸びの規格値は同じで、複層は主材を厚く塗る設計です。外壁材、前回の塗膜、メーカーの適用下地で決まるので、業者にJISの区分と使用量を聞いて比べてください。
弾性塗料はサイディングに使ってはいけませんか
資料は禁止とは書いていません。ただ、断熱性の高い外壁では膨れが生じやすく、業界団体は弾性塗料、特に濃色は避けたほうがよいとしています。前回が弾性なら塗り重ねによる膨れに注意し、すでに膨れている塗膜は除去してから塗ります。
弾性塗料の耐用年数や単価は何を見ればよいですか
この記事では扱いません。業界団体は、メーカーの期待耐用年数は耐久性を保証しているわけではないと説明しています。見積書の使用量とメーカーの仕様書で、何をどれだけ塗るかを確かめてください。
弾性塗料は北海道の冬の寒さでも伸びるのですか
規格上、-10℃での伸びの下限は標準時より大きく下がります。向く・向かないは一般化できないので、下地の水分、透湿性、塗る時期で判断してください。
前に弾性で塗った壁に硬い塗料を重ねてもよいですか
相性があるので、塗料メーカーに相談して試し塗りで確かめてください。剥がさずに重ねると膨れが出やすく、既存が高弾性の防水形複層塗材だと不具合が起きることがあると資料にあります。
出典:日本建築仕上材工業会「【材料一般】に関するQ&A」/日本ペイント「外壁の窯業系サイディングの塗替えは注意が必要と聞いたがどういう意味ですか?」/日本建築仕上材工業会「仕上塗材の改修工法」(平成28年度講演会資料)/東亞合成「ASHIBA」vol.124(2018年)/建築研究所「建築研究資料 No.145」第2章
まとめ:弾性塗料は種類と外壁材と既存塗膜で決める
弾性塗料は伸びて細いひび割れに付いていく塗膜をつくる塗料で、見積書でよく見る単層弾性・複層弾性はJISの防水形、微弾性フィラーは塗り替え用の可とう形の区分です。伸びの規格があるのは防水形だけで、-10℃では下限が大きく下がります。向くのはモルタルやコンクリートの壁で、サイディング・ALC・前回が弾性の壁は膨れに注意が要ります。まず外壁材と前回の塗料名を確かめ、見積書の工法名と塗る量を業者に聞いてください。
記事へのご指摘や監修のご相談はお問い合わせから承ります。工事のご依頼や見積もりは受け付けておりません。
本記事は国土交通省の仕様書、業界団体の資料、塗料メーカーの公開情報をもとに一般的な考え方を整理したもので、個別の外壁に弾性塗料を使えるかどうか、工事の要否や費用を判断するものではありません。伸びの規格値はメーカーの技術資料が示す値で、公共建築工事標準仕様書は公共建築物を対象としたものであり、戸建住宅にそのまま適用されるものではありません。使う塗料の適合と施工方法は、塗料メーカーと施工業者にご確認ください。

